2013年12月17日火曜日

秋田の新名物 ハタハたんぽ鍋誕生

 ハタハタ料理の代表的なものの一つに「しょっつる鍋」があります。
 しょっつるとは「塩魚汁」と書き表すがごとく、塩と魚だけ、つまり塩とハタハタだけでつくる秋田独特の透き通る琥珀色をした液状の調味料です。もちろんハタハタ以外の魚を原料にする場合もありますが、その味わいを、言葉で表すのは、とても簡単そうでいて、とても難儀です。
これがハタハタ100%の塩魚汁だ。しかも十年熟成。
 なにせ、ハタハタを塩漬けにして熟成させること1〜2年。そして、そこから凝縮された雑味のない旨味だけを取り出してあるのですから、その味わいは一言二言で語り尽くせる訳がない。とはいえ、原料は違えどタイのナンプラーやベトナムのニョクマムも「しょっつる」の一種です。そして、それらの間には、次のような関係式が成り立つと言う人もいる(私です)。
 すなわち、しょっつる={(ナンプラー、ニョクマム)−魚臭さ+香ばしさ}×3乗の公式です。つまり、しょっつるの仲間のうちでは、とびっきり上品で芳醇な旨味を持つのが、ハタハタのしょっつると言えるのではあるまいか。というか言ったもん勝ち。
 とまれ、これまで四十余年生きてきて、そして、毎年、ハタハタを食べてきて、しょっつる鍋と言えば、ハタハタ、ネギ、豆腐、それに、しょっつるだけだと信じてきたし、それで満足であったし、それだけで幸せであった。
 上品で淡白なハタハタの白身には、ハタハタ100%の上品で澄み通った「しょっつる」しかあり得ず、その抜群の旨さを舌が、その琥珀色に輝く清澄なスープを眼が、それぞれ記憶しているのであった。つまりである、私のしょっつる鍋には、濁りや雑物は一切許されないのである。
 なので、今冬、ハタハタが初めてという友人にも、保冷箱の中には、ハタハタと一緒にしょっつるの小瓶を入れて、けして道を誤ることなど無いように、しょっつる鍋のレシピもつけて送ったのである。
 それなのにである。その友人から、「ハタハタのしょっつる鍋美味しい!仕上げに、ご飯入れて食べます!」とのメールが返ってきたのだ。ハタハタのしょっつる鍋美味しい!には、してやったりと思わずニヤリとした私も、仕上げにご飯!のくだりには、「それだけは止めてくれ!レシピにも無いだろ!」と思わず叫びそうになったのでありました。
 しかしである、しょっつる鍋に、ご飯という新しい料理に心ひかれてしまい、そして、これまでの人生で、一度も、それを試してこなかった事を猛省する自分が居たのであります。
 ならばである。今の時期、新米で作った「きりたんぽ」があるではないか。さっそく買ってきてチャレンジです。せっかくなので、しょっつる鍋に、きりたんぽはもちろんのこと、きりたんぽ鍋にハタハタも試してみました。
これが秋田の新名物 ハタハたんぽ鍋だ!
 それではさっそく結論です。しょっつる鍋に、きりたんぽは合います。特にブリコ(卵)をまぶして食べるのがいいですね。プチプチもちもちの食感の対比が口中で面白く、しょっつる汁をたっぷり吸い込んだきりたんぽの新米の味とブリコのかすかな味が、ブリコの持つ粘りの中で混じり合うのが美味しい。出来ることなら、いつまでも噛み続けていたいという味です。澄んだスープが少しくらい濁っても、美味けりゃいいじゃないかと改心。
 私もようやく清濁併せ呑むことの出来る大人になったのだなと、しみじみ実感したひとときでありました。
プチプチもちもち 清濁併せ呑んでこその旨さ
 それでは、きりたんぽ鍋にハタハタはどうなったのか。見栄えはとても良いんです。いかにも美味しそうな雰囲気。けれどもですね。食べてみると、ハタハタがよそよそしい。きりたんぽ一家の後妻としておさまったはいいけれども、早々に家庭内別居に陥ってしまったような感じですね。それも、きりたんぽ一家は上手くやっていこうとして心砕いているのに、それをハタハタ自身が受け入れたくない様子。
理想的な家族に見えて、家庭内別居状態の「きりたんハタ鍋」
 つまり、こういうことです。ハタハタしょっつる鍋に、きりたんぽは合うけれども、きりたんぽ鍋にハタハタは合いません。すなわち、「ハタハたんぽ鍋」は秋田名物になり得るが、「きりたんハタ鍋」は無かったことにしてください。


 それと、せっかくの機会であったので、鳥取県の友人から頂いた隣国「大韓民国」でのハタハタ料理レシピを参考に「トルムクメウンタン」にもチャレンジ。「トルムク」=ハタハタ、「メウンタン」=辛い鍋。つまりハタハタの辛い鍋料理です。
 これは美味い。驚きでした。唐辛子のカプサイシンの作用なのかは分かりませんが、ハタハタの白身の香ばしさが引き立ちます。新しい味の発見でした。それに大根を入れたのですが、この大根にハタハタの旨味が乗り移っています。ブリ大根ならぬハタハタ大根。
 しからば「ハタハたんぽ鍋」に続けとばかりに、きりたんぽと合体させてみました。
 果たして、唐辛子スープの中にあって、ハタハタの主張は聞こえてくるのに対して、きりたんぽは無口になってしまいました。むにゅむにゅするだけで、お米の味もほとんどしない。
 結論。唐辛子スープにきりたんぽは合わずです。「トルムクメウンタン」は、残念ながら、秋田新名物「トルムクメウンたんぽ鍋」ならず。
 けれどもですね。秋田では、きりたんぽに味噌をつけて焼いて食べることがあります。
 そこで考えました。あの辛味と調和できるのは味噌味かも知れない。もしかしたら、「トルムクメウンたんぽ鍋」を秋田新名物に成らしめるミソはそこにあるのではないかと。今度試してみよう。