2013年1月8日火曜日

鰰寿し祭り

 ハタハタを使った秋田の郷土料理に「ハタハタ寿し」がある。「寿し」とはいっても江戸前に代表されるような握り寿司ではない。飯ずしの一種で、ハタハタ、ご飯、麹をベースに、かぶや大根、にんじん、ふのりなどをアクセントとして加え、杉の桶や漬物たるで重石をして漬け込んだものである。秋田でハタハタは、11月下旬から12月のごく短い間に、産卵のため浅瀬にどっと押し寄せてくるが、ハタハタ寿しは、この時期のハタハタを使い、1か月以上熟成させるもので、冬場の保存食として重要なものであった。それに、もともとは祝い料理とされ、年取りの日と元旦の祝い膳には欠かせないものでもあった。
 単に漬け込むとはいっても、製造過程は、地域によって、各家々によっても違うのである。ハタハタを下処理する際には、塩や酢を使うが、その際の手順や分量も違うし、ご飯や麹の配合、それに漬け込み期間も違っている。ハタハタ寿しは、お茶受けとして、また、酒肴としても良いものであるが、漬け込み方の話題であっという間に一時間は過ぎてしまうほどだ。ハタハタ寿しが無くとも酒が進むのである。
 実は我が家でも寿しを漬けることがあるが、ハタハタの下処理には数日かかるほか、漬け込む作業も、野菜などの材料を揃えるところから始めるとなれば一日がかりになる。漬物たるにすべての材料を敷き詰めた後、重石をして、ほっと一息つけるまでには、ほぼ一週間がかりになる。年の暮れの書き入れ時に、わざわざ漬け込むのはかなりタイミングが必要なのである。なので、今回、自家製作りは断念した。妻と共同作業でやれば良いのではとの指摘もあるが、我が家の場合、それは無理な注文なのである。それに、一度たりとも満足する仕上がりになったことが無い。妻が協力的ではない理由はそこにある。
 さて、潟上市にある道の駅「てんのう」では、「鰰寿し祭り」が行われている。正式名称は、市名を冠にして「潟上 鰰寿し祭り」という。今年から始まった。ということで、さっそく行って来てみた。祭りは道の駅構内の特設会場にて行われていた。祭りといっても、にぎやかなお囃子や踊りがある訳ではなく、品評会といった感じで、1月中の毎週日曜日、何人かの作り手が腕に自慢の鰰寿しを出品し、その出来栄えを来場者が味わい合うイベントだそうだ。


 近づいてみると、長方形に組まれた特設テーブルには、10名の作り手による10種類の「鰰寿し」がそれぞれ300g程度ずつパック詰めで陳列されている。かたわらには試食用の小さなタッパー容器がある。初日かつ開店一番であったのだが、すでに、年のころは60歳前後であろうか、おばさんグループが、特設テーブルを取り囲みながら試食をしている。
 おばさんグループの話を聞いていると、ご近所仲間のようで、「やっぱり〇〇さんの作ったのは、うめなぁ(美味しいなぁ)」とか、「△△さんの、人参だば、でっけぇなぁ(大きいなぁ)」だとか、「これはまだまだ熟れでねなぁ(熟成されていない)」などなどと話が盛り上がっている。会場は真冬のホールなので、決して暖かい場所ではないにもかかわらず、おばさんグループは、テーブルを廻りながら小一時間ほどは話し込んでいたようだ。




 実際、10種類もあるので、どれが美味しいか、自分の好みに合うか、いくつかに的を絞るまでに、会場のテーブルを、じっくり時間をかけて2回転はしなければならない。さらにその中から一番美味しいのはどれかを決めるには、少なくとももう1回転必要で、試食を重ねていると、ちびくろサンボのトラになったような気がしてくる。主催者に聞いてみると、次回はさらに多くの作り手のエントリーが予定されているそうなので、たくさんのトラが出てくることだろう。

加藤さん(推定年齢63歳)の漬けたハタハタ寿し
 今回、一番美味しいと感じたのは、加藤さんの品。原材料は、ハタハタ、うるち米、麹、大根、人参、生姜、ふのり、柚子、唐辛子、食塩、穀物酢、みりん。他の品と比べ、甘みがある中にも、生姜が効いていて、柚子のアクセントも清清しい。次回も楽しみだ。