2012年1月31日火曜日

北限の秋田ふぐ(その2)

昨2011年秋、初めて1泊入院ドックなるものを受診した。年相応に身体にはあちこちガタが来てはいるが、ドック受診の本当の目的は血糖値や尿酸値を知りたい訳でもなく、生活習慣を改めるきっかけにするためでもなかった。動機はとても不純で、実は泊まりの宿の夕食なのであった。宿は県都秋田市の郊外に静かに佇む老舗の天然温泉旅館である。さて、お待ちかねの夕食であるが、老舗温泉だけに驚くほど豪華なのである。もちろん多少の期待はあったものの、まさかこれほどまでとは思わなかった。曲がりなりにもドック受診中の人間に与える夕食である。しかし、結果次第では、最後の晩餐ともなるだろうから、せめてもとの病院の配慮なのであろうか。あれこれ考えても仕方あるまいと、病院の思いを素直に受け取ることに決めて、即座にメタボ、コレステロール、高血圧の3用語を頭の中から消し去った。よく見ると近くのテーブルではドック仲間がすでに箸を進めていて、さらによくよく見ると、生ジョッキがデンと鎮座しているではないか。果たして、頭からは、さらにγーGTP、プリン体、痛風の3用語が消え去った。


さて、煩悩も消え去り、頭もすっきりしたので、さっそくほど良い冷え具合の生ジョッキをウグウグ傾けながらも、目はどうしても斜め下に並んだ豪華な夕食にいってしまう。どこから箸を付けるか深く迷う。お造りの甘エビは、大きなホテルや旅館にありがちな頭の黒ずみもなく、見事に新鮮である。柔らかすぎてくどさのある甘みではなく、弾ける身から甘さと旨味が湧き出してくる、普段ではなかなか味わえない甘エビであった。鍋はなんと「北限の秋田ふぐ」のてっちりである。小ぶりな大きさからみるとショウサイフグのようだが、馬鹿にしてはいけない。最上級のトラフグに次いで、マフグなどとともにうまいフグと言われ、鍋物にはもってこいのフグである。紅葉おろしと万能ねぎを散らしたポン酢でいただく。ポン酢の酸味と薬味の辛味がショウサイフグの独特の甘みとコクを引き立てる。それにだし昆布の旨味と相まったスープは喉に染み渡る。



ところで、フグにはうま味成分のグルタミン酸やイノシン酸、タウリンが多く含まれている。グルタミン酸、イノシン酸は、それぞれコンブ、カツオの旨味成分であるし、タウリンは、するめの表面を覆う白い粉に多く含まれている。つまり、うま味成分のオンパレードで、不味い訳がない。それに低カロリー。タウリンは肝機の働きを助け、また高血圧にも良いらしい。まさに入院ドックの夕食には相応しい食材であったのだ。これまでこんなに美味いフグが県外へばかり流通していたらしいが、これからは、手軽にどこでも食べられるようになって欲しいものである。秋田市土崎地区を中心に「北限の秋田ふぐ」料理を食べさせてくれる飲食店や旅館などがじわりじわりと増えてきているようだ。“2012ハタハタ・ヌーベル・キュイジーヌ”で紹介した潟上市の「地魚工房えがわ」でも、から揚げや白子揚げ、それに丼物やフグ刺しなど、いろんなフグ料理が楽しめる。


ご存知のとおり、フグの肝臓や卵巣には、青酸カリの1000倍以上とも言われる毒(テトロドトキシン)が含まれている。このため、フグが除毒されて食用となるまでには、取り扱い資格がある流通・加工業者や板前などの何重ものチェックを受けることになるのである。逆にいえば、旅館やホテル、飲食店で食べる、あるいは量販店で購入して食べる分には安心できる。ごくまれに肝臓を出す飲食店があるらしく、先日も元M県知事の同伴者が食中毒になったらしいが、まったくもって、どげんかせんといかん事態である。