2012年2月12日日曜日

2012ハタハタ・ヌーベル・キュイジーヌ

開店の挨拶で、秋田と言えばハタハタと書いた。そして秋田でハタハタと言えば、「塩焼き」、「しょっつる鍋」、「飯寿司」、「湯引き」、「三五八漬け」、「田楽」、「から揚げ」、「干物」などなど多様な食べ方がある。秋田のハタハタは産卵のために、11月から12月にかけての1~2週間の極めて短い間に、大量にかつ一気に沿岸の浅場に押し寄せてくる。それを小型の定置網や刺し網で漁獲するのであるが、いずれにしても、盛漁期の浜はてんやわんやの大騒ぎとなる。だからであろうか、食べ方のレパートリーも、一度に大量に処理できる調理方法が発達したのかも知れない。それに、秋田でハタハタを生で食べる習慣は、知る限り無い。なお、秋田の県魚ながら最近需要は伸び悩んでいて、消費拡大のため業界でも「酢〆」は手がけるようになり食べる機会もあった。しかし「刺し身」は皆無であった。それが、秋田のハタハタ食文化である。そのはずであった。
なのにである。断りも無く「活け造り」の登場である。当然のことながら、魚を味わう順序としては、まずは生からである。しかし、秋田のハタハタ漁の忙しさは、ハタハタを捌いて、皮をひいて食べる暇を与えなかった。それゆえ、生食は発達しなかったのであろう。
そのつもりで生きてきた秋田県人が、突然、ハタハタの刺し身に出会ったのである。しかも、活け造りである。時は2012年1月7日、場所は潟上市の道の駅にある「地魚工房えがわ」にて。生簀から取り出されたハタハタが調理場へ向かうのを見届けてから、待つこと数分で、それは目の前に現れた。口をパクパク動かしながら・・・秋田県人(私)が初めて出会う「ハタハタ活け造り」である。
秋田のハタハタは、加熱、乾燥、あるいは発酵のいずれかの調理過程を経たものであるが、これは、まさに究極のハタハタ・ニューベル・キュイジーヌ。包丁を入れるほかは、まったく調味もされず、ハタハタ本来の味を味わう一品である。
さっそく、家に持ち帰り、晩の食卓を飾る。従来のハタハタ料理しか食べたことの無い者にとって、生食はそれなりに勇気の要る行為である。恐る恐る、それでもいくらかの期待を胸に、震える手で箸をのばし、刺し身にしては小さな一切れを口に運んでみる。細やかな脂とうっすらとした旨味を感じる。細やかな繊維の肉質は川魚を思い起こさせる。思いのほか旨い。白子も臭みもなくさっぱりとした味わいであった。刺し身は一切れが小さいので、2~3切れを一度に味わうと旨味も多く感じられる。少し残して次の日の晩も食べてみるが、旨味が増して良い。
隣の山形県では、しばらく前から刺し身で食べている話は耳にしていたが、秋田のハタハタ食文化の中にあって、活け造りは、決して、奇をてらった食べ方ではなく、十分に定着する可能性を見た。
ハタハタには2つの旬がある。成熟前の脂ののった秋のハタハタと、特に成熟したブリコを味わう冬のハタハタである。前者は深海に生息している時期であり、底びき網で漁獲される。実は「塩焼き」を食べるなら秋のハタハタが一番である。ならば刺し身はどうであろうか。今から秋が楽しみである。